【展覧会】黄金のファラオと大ピラミッド展
公開日が1月3日までとのことで、駆け込み同然の観覧でした。
ファラオとピラミッド
本展示は「ピラミッド」を中心に、それを取り巻く古代エジプト人の死生観・世界観を物語るものだ。
ピラミッドの造営について取り分け印象的だったのは、それがけして「奴隷たちの強制労働」で片付けられるものではなく、「ファラオと共に死後の世界へ行けるという喜び」の中に、多くの人々が「十分なパンとビール」の報酬を糧に携わったということだ。ピラミッドの周りにも、この巨大事業に生涯を賭したであろう家族の住居群が構えられているのも面白い。
クフ、カフラー、メンカウラーの「ギザの三大ピラミッド」の他、泥煉瓦にグレードを落としながらも粛々と続いたピラミッド造営。その丘とも建造物ともつかない姿容こそ、かえって後世の我々へ強く問いかけるものがあった気がする。ちょうど、太陽を直視できるのは、それが沈みかけたときであるのと似て。
絶対的に思われた歴代ファラオの統治にも、数世代に渡る試行錯誤の跡が見られた。人間世界における「マアト(真理)」の体現者として神性を示す傍ら、その権力が弛みない努力と工夫によって維持されていた。その人間ファラオの苦悩が、花崗岩で写し取られた面持ちに垣間見えるのではないか。
家族と女性
今で言えば写真の代わりか、同時代人の「家族」像の豊富さにも心が温まる。妻は夫の背や腕に手を回し、子供は口に指を当てるポーズといった形式は、3000〜5000年後の今見ても違和感ない。
また、目を見張ったのは女性向けアクセサリーの数々。貴族も平民も服装は違えず、多くは装飾によって身分を表したというのだから、古代エジプト人にとってアクセサリーが半身を担うものであったことは想像に難くない。色とりどりのビーズから、スカラベや猫を模った宝飾品に、当時それを身に付けたであろう女性たちの煌びやかさがありありと幻視される。
死は次なる生の始まり
本展示のクライマックスでは、死せる者の旅立ちと、それを送り出す者たちのドラマが紡がれる。
古代エジプトの思想では、死者の「バー(魂)」は鳥の姿となって肉体から飛び去る。だから墓所には壁に扉を模造した「偽扉(ぎひ)」が用意されているし、この世へ戻ってきたときの居場所も必要になる。それがミイラだ。墓所には故人の家族や室内を再現したミニチュアや壁画まで収められる。また、「死者の書」という、被葬者が冥界から楽園へ至るまでのあれこれを記述したマニュアル(!)が収められる。
死者のためにこれだけ尽くしたのは、死が人生の一局面に過ぎないという観念があったからこそであり、そうして死への恐怖と折り合っていたからなのだろう。これは後代の宗教にも通じるところであり、しかし時代的にこれだけの努力と労力が費やされているのは驚きでもある。
「アメンエムペルムウトの彩色木棺とミイラ・カバー」は、これらの物語を踏まえた集大成的な展示品だ。棺には冥界と神々を表した図画が、内と外にびっしりと描き込まれている。その隙間のなさとシンメトリーさが、死者を封じ込める、あるいは護るかのようでもある。内側で女神が両腕を広げて死者を迎え入れる構図にもハッとさせられる。
最終展示品の「アメンエムオペト王の黄金のマスク」は、ツタンカーメン、プスセンネス1世とあわせて、世界三大黄金のマスクに数えられる。(ツタンカーメンは国立カイロ博物館からの持ち出し禁止だ)このマスクは厚さ1mmの金板から打ち出されたという。改めてだが、ファラオのネメス(頭巾)は、この打ち出しのマスクとの相性抜群なのが面白い。「平面」の輝きと、「顔面」の造形の対比が、美術品としての価値をも導き出しているようだからだ。
総感
予備知識が少ないと情報過多に思えるが、冒頭の年表や、合間にあった吉村作治氏のヒエログリフ解説(子供にも楽しめる)などの心配りで、置いてけぼりになることはなかった。途中のピラミッドのミニチュア(だが大きい)や、最後の4K映像も、古代エジプトの世界観に引っ張り込んでくれた。
こうした歴史展示に繰り返し足を運ぶと、やはり本や映像だけでは感じられない、同時代人の息遣いというものが見えてくる。それこそが、真摯な心で過去に想いを馳せ、リアルな目で現代を見つめ直すためのきっかけになるのではないだろうか。
秋頃に東京国立博物館で開かれた「クレオパトラとエジプトの王妃展」を見逃したことが殊更悔やまれる。
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今回筆者の予習に大変役立った一冊。程良いボリュームと豊富なビジュアルで古代エジプト史を総覧できる。
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